えっ、普天間の海兵隊ヘリ部隊がグアム移転するんだったら、県内移設って必要ないんぢゃない?
先週木曜日(11月26日)、衆議院第二議員会館で伊波洋一・宜野湾市長は、連立政権与党国会議員に対して驚くべき内容の説明を行った。
詳細は、宜野湾市役所のオフィシャルホームページにある上記文書を直接読んで欲しいが、宜野湾市長がおっしゃっているのは、普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊はグアムへの移転が決定しており、そのための準備が着々と進行しているということである。
これが事実なら、沖縄への「県内移設」か否かで大騒ぎしている「普天間代替施設」建設は、危険な普天間基地の閉鎖/県民の負担軽減とは直接関係のない「新基地建設」でしかない。
自公政権下で決定したこの計画は、日本国民の血税を使い、沖縄の海兵隊が移転する「本宅」である一大拠点をグアムに建設し、なおかつ沖縄県内に「別宅」の新基地を建設して差し上げるというものである。いくらなんでも、こんなでたらめな前政権の置き土産を履行してあげる必要性はまったくないだろう。
米国がパッケージ論を振りかざし「急げ」と強面で迫ってくるのも、外務官僚や防衛官僚が「年内」と焦り大臣をせっついているのも、このような事態が時間の経過と共に明らかになることを恐れ、駆け込みで新基地建設を強行しようとしているのではないか。
以下、宜野湾市長が掘り起こし指摘してくれた内容を参照しつつ、問題の整理をしてみる。
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日本政府は、海兵隊のグアム移転が司令部中心であるという説明を続けてきた。そうであるから、新基地(普天間代替)建設が必要であるというロジックである。しかし、伊波洋一市長と宜野湾市役所のスタッフたちは、在日米軍再編に関して米国内の動きを注視し公表されている資料を入手・翻訳し徹底的な精査を試み続けてきた。
[E:one]2006年7月には、米太平洋軍司令部は「グアム統合軍事開発計画」を策定し、同年9月にはホームページで公開している。そのなかで「海兵隊航空部隊と伴に移転してくる最大67機の回転翼機」と明記される。つまり普天間のヘリ部隊のグアム移転である。
[E:two]2007年7月には、グアム統合計画室とアンダーセン空軍基地(宜野湾市の抱える普天間基地の海兵隊航空戦闘部隊の受け入れ予定地)の責任者から直接説明を受け、移転予定地の視察も行っている。そのとき、伊波洋一氏は、65機から70機の航空機と1500名の海兵隊航空戦闘部隊員が沖縄からアンダーセン基地に来る予定と説明される。
[E:three]2008年9月15日に、国防総省が海軍長官の報告書として連邦議会下院軍事委員会に提出した、国防総省グアム軍事計画報告書がある。現在、普天間飛行場とキャンプ瑞慶覧に常時駐留している海兵隊航空関連部隊では、KC130(空中給油機=岩国への移転が決定している)部隊関連を除いて、全部隊名がそのリストで、グアムに移転する海兵航空司令部要素として挙げられている。
[E:four]さらに、今年11月には、グアムへの海兵隊移転の環境影響評価書ドラフトが公表される。そのなかでは、沖縄からの移転は、海兵隊ヘリ部隊だけでなく、地上戦闘部隊や迫撃砲部隊、補給部隊までグアム移転の対象になっている。
なぜ、これらの事実が着目されず、政府がいう「司令部中心」という意図的な情報操作がまかり通り、沖縄県民が守り大事にしたいと欲する海の自然を潰して海兵隊に「別宅」まで造って差し上げる計画が検証されずに、ここまで放置されているのか。
「県外移設」は隘路である、「年内決定」しなければと、根拠の薄弱な政治家の「焦り」だけが報道され続けているが、これは政・官・マスコミの一大情報操作であり、戦前の大本営発表を私は知らないが、それ(大本営発表)とあまり変わらない「体制」「精神」なのではないかとさえ思えてくる。
マスコミに少しでもジャーナリストとしての機能と役割に対する自負心があるなら、政府の言う「司令部機能の移転が中心」という発言を検証し、グアムで実際に動いている米軍の計画を宜野湾市ぐらいには情報収集解析して、事実関係を明らかにすべきである。国民の膨大な血税が使われる事業に対して、あまりにもずさん極まりない事態である。普天間の部隊はグアムに移転するのに、その部隊が使用する(といわれる)基地を沖縄に新たに造ることについて合理的な説明ができるわけがない。ここをスルーして、「年内決着」「県内移設」に走る日本国政府およびマスコミの大合唱は、異常である。なにか狂っていないか、この国は。
[E:eyeglass]
新基地建設はなんのためにあるのだろう。海兵隊に沖縄リゾートへの足がかりを残してあげる「別宅」なのだろうか。
おそらく、これは、「日米軍事再編」の基本的考え方の上に立脚している。
沖縄の海兵隊を日本国政府の金(国民の税金)を使いグアムに移転し一大拠点を整備する。しかし、米軍としては自由使用できる沖縄の軍事基地を維持しておきたい。
そこで必要な施設等は残しつつ、自衛隊との共用という形にして、平時は自衛隊が運用し、作戦上必要な際には米軍が使用し自衛隊が後方支援する。キャンプ・ハンセンなどでは、すでにその形が始まっている。
キャンプ・シュワブへの新基地建設は、米軍(海兵隊)が沖縄に持っておきたい航空施設の建設であるが、普天間のヘリ部隊はグアム移転するので、平時は航空自衛隊が使用することが想定されているのかもしれない。
そうすることで、那覇空港の軍民共用化を解消しつつ、沖縄の軍事基地のあり方を漸次変えていく。それを負担軽減と呼ぶのか、日米合同による軍事植民地化の永続化と呼ぶのかは立場により変わるだろうが、軍事植民地としての沖縄を近い将来には解消しないということにだけは事実である。米軍再編計画の「パッケージ論」が、なんら説得力を持たないのは、日本政府(防衛省)により明らかにされない自衛隊に関わる部分が多いことに起因しているのかもしれない。
日米で「米軍再編」の合意過程を検証しているらしいが、日本側の大臣が変わっただけで、計画を作った官僚たちが検証する作業結果に大きな期待はできない。しかし、民主党連立政権が、対等な日米関係を標榜するなら、ここは避けては通れない本丸だ。
「なごなぐ雑記」はあまり読者も多くないマイナーなブログだが、「なかのひと」等のアクセス解析をみると、ここんところ、外務省や防衛省、内閣府や国会、米軍や創価学会、沖縄をはじめとしたマスコミ各社などからのアクセスが頻繁である。それぞれの「なかのひと」が暇つぶしに見ているのかもしれないが、少しでもオフィシャルな情報収集の一環であるなら、マスコミ関係者には伊波洋一宜野湾市長の指摘している問題の事実関係を明らかにすべく動いてもらいたい。政府筋には何を言っても無駄かも知れないが、沖縄を踏みつけにし維持し続ける安保体制には無理があることを認識し、あり方をドラスティックに変える努力をすべきである。
この件については、可能な限り情報を収集し、また書いていきたいと思う。
沖縄の脱軍事植民地を成すには、粘り強いファイトが必要だというのは、この12年余でイヤというほど思い知らされた。「復帰」にかけた先輩たちの情熱を、裏切られた「復帰」への憤りを、後の世代の我々が追体験し、次の世代に何かを渡していくのは重要。もうじき50歳になろうとして益々やっと青年の気分。だが先は20代や30代のころのように途方もなく長いものではない。
【参照】
「なごなぐ雑記」の関連する過去エントリー
[E:pencil]普天間移設の行方 2009年7月26日 (日)
岡田外相の幹事長時代の発言をナイーブに受け止めていた時期もある。現在の右往左往をみていると残念でならない。
[E:pencil]新基地の必要性は? 2007年7月21日 (土)
グアム視察を終えた伊波洋一宜野湾市長のインタビュー記事。
[E:pencil]名護新基地は普天間代替ですらない。政府は今すぐ中止/断念せよ! 2007年10月24日 (水)
伊波市長が野党時代の民主党鳩山幹事長に「グアム関係」資料を渡して政府追求を求めている。
[E:pencil]キャンプ・シュワブについて 2007年11月 4日 (日)
米海兵隊のキャンプ・シュワブがどれほど「リゾート」なのかということについての記事。
下記は、自衛隊のあり方も変わる「日米軍事再編」なんだという西山論文を紹介したエントリ。ちょうど辺野古海域ではボーリング調査のために自衛隊が出動されるという前代未聞の事件が起こる前夜だった。
[E:pencil]西山論文を読む(3)_重要追記あり 2007年5月 9日 (水)
[E:pencil]西山論文を読む(2) 2007年5月 8日 (火)
[E:pencil]西山論文を読む(1) 2007年5月 7日 (月)
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