みやぎブログ

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新生・名護市へ捧ぐ

 名護市長選挙の結果を受けてなお、「ゼロベース」などという用語を繰り返し、政府は「辺野古」を手放さない。これまでの地元(行政的には名護市という基礎自治体)受入れという新基地建設の実現可能性の根幹が変わったのに、旧来のプランを残すことに固執する姿勢はゼロベース思考ではない。

 首相は選挙前に「選挙結果も斟酌して」と発言していたのに、選挙結果が出たら官房長官が「斟酌する必要はない」などと言辞を吐く態度は、政府は「民主主義」的ですらないと公言しているに等しい。

 市長選挙はもちろん住民投票ではない。しかし、名護市長選挙において新基地建設問題が大きく問われていたのは事実であり、当選した稲嶺進氏は「辺野古に基地はつくらせない」と公約し当選したことも周知の事実である。

 ここで天下国家を論ずるつもりはないが、いよいよ政府は追い詰められている。

■「変化」への市民の期待

 市長選挙の最終結果は、稲嶺ススム17,950に対し島袋ヨシカズ16,362で、その差は1,588だった。

Nago702010_2 島袋氏は前回市長選の得票16,764からわずかな目減りだが、投票総数が1万2千近く増えていることを考えると、わずかとはいえないのかもしれない。

 島袋陣営は期日前投票の動員など自らが得意とする選挙を手堅く進めたが、「変化」への希望が大きく動き始めた有権者の支持を得られなかった。革新および一部の保守層のみならず、「変化」への無党派層の期待が稲嶺市長を誕生させたといえる。

 事前の世論調査では「経済」を重視して投票するという有権者の傾向が強くみられた。経済を重視したからこそ、これまでの政策は支持されなかったのである。島袋氏が力説した振興策等の「成果」は、「振興策バブル」の恩恵を感じない市民の生活実感と乖離しており評価されなかった。振興策の原資を供給する「政府とのパイプ」も政権交代で望めなくなったのも大きかっただろう。

 さて、これからの問題だが、政権党である民主党は県連が稲嶺進新市長を推薦したが、党本部は一切関与していない。さらに世界大不況下で国家財政も逼迫しているなか、無駄な公共事業などに対する政府の姿勢ははっきりしており、地方自治体も旧来のありかたで陳情要望するだけではいかない。稲嶺市長に単純に「政府とのパイプ」を期待するのは間違いである。

■新生・名護市の二つの課題

 「変化」への市民の期待を受けて、稲嶺進市長のリーダーシップの下、新生・名護市が早急に取り組まなければならない二つの重要課題がある。

 ひとつは「振興策の総点検」、そしてもうひとつは「普天間代替施設の経緯の総点検」である。

 もとより市民は、基地反対さえすれば名護市が経済的に逼迫しようとも荒廃しようとも構わないなどと思うはずがない。市外から応援で訪れる反対派のみなさんがどうかは知らないが、私は名護市で新基地建設に反対していて、そのためなら経済はどうでもいいなどという市民の話は聞いたことがない。1997年の市民投票時にも、経済振興に期待して条件付賛成する人々も決して少なくなかった。岸本建男前市長が条件付で受入れて以降、遮二無二「金融特区」の実現に力を注いだのも、そのような名護やんばるがおかれている経済的な状況を改善するための努力以外の何物でもなかった。

 新生・名護市は、新基地建設に明確に反対すると同時に、その経済振興への市民の渇望に応えなければならない。そのための二つの総点検が急務である。

■振興策の総点検

 新生・名護市は、「振興策」について基地建設と明確にリンクしているものと、そうではないものを腑分けして、さらに、市民生活に直結するものと間接的に経済振興に資しているものなど、様々な価値基準が考えられるが、費用対効果を明確にし透明性をもって明確に仕分けしていく必要がある。いわゆる振興策漬けの10年余を総点検する「事業仕分け」である。金融特区施設に入居しているある企業は年間1億円のコストカットになって助かっていると発言しているが、その1億円を名護市という自治体が拠出しているのは妥当な政策なのか、曇りのない目で明確に判断しなければならない。振興策の中には、国や県がやるべき仕事を、体力のない名護市にやらせている部分も多くある。

 民主党政権地方公共団体として新生・名護市が渡り合っていくためにも、基地建設に翻弄されることで得てきた現在までの振興策を自ら総点検して整理していく必要がある。そのうえで、しっかりと政府との交渉に臨むことである。そのためのロジック、哲学、物語が必要である。迷惑施設を受入れてもらうための手段以外に、政府からおいそれと特別振興策など出てくるはずはない。市民の暮らしを守り地域振興を促進するための、徹底したリアルな思考とタフな交渉力が求められている。

普天間代替施設の経緯の総点検

 「普天間代替施設の経緯の総点検」も重要である。現在の辺野古移設案になるまでは、シュワブ陸域に短い滑走路や、ヘリパッド等も含めて、様々なレベルが検討されている。それらを可能な限り情報収集し、政府が名護市にどのようにアプローチしてくるかを想定しておかなければならない。さらには、稲嶺進市長の今回の選挙時の「公約」やメディアでの発言も総点検しておく必要がある。政府官僚は微細にわたり稲嶺進氏の発言を収集し、どのように新生・名護市にアプローチすれば何が可能かを検討しているのは間違いない。下地島への移設を前提に、暫定的にシュワブ陸上にヘリパッドをぐらいの話が出てきてもおかしくない。その意味では「ゼロベース」である。県内移設を断固認めないとするなら、そのための情報戦略がなければならない。名護市という地方公共団体が条件付とはいえ新基地建設を受入れてきたことによって、この13年があったのである。新生・名護市は、そうならないための最大限の努力をしなければならない。その努力は、21世紀の沖縄の可能性を切り拓く。

[E:sun]

 「なごなぐ雑記」をしばらく開店休業状態にします。稲嶺進名護市長の誕生で、私がこだわり続けていた市民投票(1997)の民意と名護市意思決定のレベルをあわせたいということは成りました。まだ政府が辺野古移設を断念していないのはとても気がかりですが、ブログを書き続ける原動力になっていた「核」が昇華したことは大きく、13年間走り続けて倒れこむ気分、エネルギーを充填しなければ息も絶え絶えです。名護市まちづくりや、基地建設問題について考えることは山ほどあるので、きっと、またおいおい書き始めますが、しばらくお休みします。はてなの「nagunagunagonaguの日記」で日常の与太話は続くはず^^

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